
ピエール・ジャンヌレ作品をめぐる違法市場 リ・エディション、オマージュ、フェイク
ピエール・ジャンヌレがチャンディーガル計画のために手がけた家具は、現在、世界で最も人気の高いデザイン・コレクティブルのひとつとなっている。しかし、この成功は同時に、複数のレイヤーに分岐した巨大な違法マーケットを生み出した。それぞれの層は独自の論理と手法で動いている。著作権を完全に無視するメーカーもあれば、法的なグレーゾーンや偽善を巧みに利用する者たちもいる。そして、完全な偽造品を製造する悪質な贋作者も存在する。いずれの業者も「すべてオリジナルだ」と主張する現在、この構造を理解せずにどの立場に与するかを選ぶべきではない。
- 違法なリ・エディション?
Sielte(ベルギー)、Phantom Hands Gallery(アイルランド)、Dino(アイルランド)、Klad(アメリカ)、Objet Embassy(オランダ)などをはじめとするインド系サプライヤーは、「ジャンヌレの遺産を称える」という名目で、チャンディーガル家具を大量に市場へ供給している。
しかし彼らが語らない事実がある。ジャンヌレの著作権は2037年まで保護されており、彼らの誰一人として正式なライセンスを取得していない。彼らの弁明はこうだ。「チャンディーガル工房は共同制作であり、すべてが共有のものだった」。一見すると民主的で高潔な説明に聞こえるが、法的には完全に誤りである。著作権は常に実際の作者個人に帰属する。たとえばバルクリシュナ・ドーシのようなプロジェクト・マネージャーや設計実務者に自動的に帰属するものではない。
仮にエリー・チョウダリーが図書館チェアを設計したのであれば、その著作権は彼女に帰属し、ジャンヌレが設計したのであればジャンヌレ本人に帰属する。
しかし、こうした業者たちは、この根幹となる問いを存在しないものとして扱う。
彼らはロマンチックな神話の背後に隠れながら無許可で制作・販売を続ける。
「当時は知的財産という概念がなかった」「オリジナル技法を使っているから問題ない」
しかしながらこれらは都合の良い作り話にすぎない。
インドにも欧米にも著作権法は存在するのは、まさにこうした行為を防ぐためである。
問題は、ジャンヌレの権利継承者が権利行使をしていないという一点にある。その結果、誰も止める者がなく、ベルギーからアイルランド、アメリカ、オランダへと、違法流通は世界規模で拡張し続けている。
- カッシーナはコピーを「オマージュ」と呼ぶ
カッシーナはル・コルビュジエの著作権を保有し、長年にわたり「正統性」を武器に帝国を築いてきた企業である。
ところが、ピエール・ジャンヌレのチャンディーガル家具の権利を取得できなかった彼らは、驚くべき選択をした。
「権利が取れないなら、コピーして“オマージュ”と呼べばいい」
これは偽善の典型である。
彼らはジャンヌレの名を慎重に避けながら「敬意」「賛辞」という言葉を語る。しかし、オリジナルと比較すれば、サイズ、プロポーション、ディテールはほぼ完全に一致している。
それは解釈ではなく、事実上の複製である。
一方で同じカッシーナは、ル・コルビュジエ作品の権利侵害に対しては徹底的に訴訟を仕掛ける。つまり彼らは、利益になるときだけルールを無効化するという、極めて都合の良い二重基準を確立したのである。
- 新品を「ヴィンテージ・オリジナル」として売る詐欺
市場には、正規にヴィンテージ・オリジナルを扱うギャラリーも存在するが、その価値の高さゆえに、新品を人工的にエイジングし、1950〜60年代のオリジナルとして売る詐欺が横行している。
これは著作権侵害の問題ではなく、明確な刑事犯罪(詐欺罪)であり、EUおよび米国では実刑判決の対象となる。より巧妙なのは、部分的に破損した箇所を新品パーツに交換しながら、その事実を開示せず、「すべてオリジナル」と偽るケースである。
無知を装うことは防御にならない。これは不倫理ではなく、犯罪である。
- ヴィンテージ・オリジナル
チャンディーガル期のヴィンテージ・チェアは、現時点で手に入るもっとも真正な選択肢である。
リ・エディションやコピーとは異なり、それらは歴史そのものを内包した実物の記録であり、固有の価値を持つ。
複製は購入した瞬間から価値を失うが、ヴィンテージは長期的に価値を維持、あるいは上昇させる。さらに、ヴィンテージ作品は一点一点が異なる。完全な同一品は存在しない。その個体差こそが、量産品には決して宿らないアウラを生む。
多くのリ・エディションは完璧すぎる。寸分の狂いもない形状、無傷の木肌。
しかしヴィンテージには、使用の痕跡、歪み、摩耗、時間の重みがある。これらが美となり、作品に生命を与える。もし「工業的な完璧さ」を美とするなら、ヴィンテージの不完全さは向かないだろう。
価格もまた重要な要素である。
たとえば、ヴィンテージのフローティング・オフィス・ケーンチェア(PJ-SI-28-A)は、リ・エディションの2〜3倍の価格になる。
ホテルなどの大規模案件では価格の安い複製品が現実的に見えるかもしれない。しかし、複製は減価し、ヴィンテージは資産化するという事実は無視できない。
どのように選ぶべきか?
これは単なる選択肢の比較ではない。
もっと深い問いがそこにはある。
倫理への問い
著作者の権利を守ることは重要なのか?
ジャンヌレはすでに亡くなっているため、著作権が守るのは本人ではなく権利保有者である。そのため、この問題はしばしば「軽い違反」として扱われる。
しかし、倫理的に見れば、これは依然として侵害行為である。
クオリティへの問い
ここで問われるのは、精密さではない。重要なのは、プロポーション、素材の質、木部の太さ、テクスチャーの豊かさである。そして何より重要なのがパティナである。ヴァルター・ベンヤミンの言う「アウラ」がまさにこれである。
唯一性と時間の蓄積が、複製には到達できない深みを生む。
価格への問い
投資として見る人もいれば、純粋なコレクターもいる。
もし予算が最優先であれば、リ・エディションは現実的な選択でもある。
最終的に問われているのは、あなた自身の優先順位である。
- 法的な明確さか
- 投資価値か
- 美の魂か
- それとも純粋な手頃さか
正解は一つではない。ただし、自分が何を買い、何を支持し、何を犠牲にしているのかを理解した上で選ぶべきである。











![[:en]New gallery opened with art and design[:]](https://www.jeanneret-chandigarh.com/wp-content/uploads/2018/12/jeanneret-chair.webp)
